陸の豊かさを守ろう取り組みを徹底解説

世界では毎年、日本の国土面積の約3分の1に相当する森林が失われ続けています。私たちの足元にある土壌、身近な森や川に暮らす生き物たち。こうした「陸の豊かさ」が、いま急速に失われつつあるという現実をご存知でしょうか。
SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」は、まさにこの危機に対応するために掲げられた国際目標です。しかし、「具体的にどんな取り組みがあるの?」「自分には何ができるの?」という疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
個人的にSDGsに関連するプロジェクトに携わってきた中で感じているのは、この目標は決して遠い国の話ではなく、日本に暮らす私たちの日常と深く結びついているということです。この記事では、国際的な枠組みから企業・個人レベルの実践まで、「陸の豊かさを守ろう」の取り組みを包括的にお伝えします。
この記事で学べること
- SDGs目標15には9つの具体的ターゲットがあり、2030年までの達成が求められている
- 世界で約20億ヘクタールの土地が劣化し、回復が急務とされている
- ワシントン条約やラムサール条約など国際法が陸の生態系保護を支えている
- 企業の森林認証取得やサプライチェーン管理が生態系保護に直結している
- 日常の消費行動を少し変えるだけで個人でも陸の豊かさに貢献できる
SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」とは何か
SDGs目標15は、正式には「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」という長い名称を持っています。
簡単に言えば、「森林や山、湿地といった陸の自然環境を守り、そこに暮らす動植物の多様性を未来に残そう」という目標です。
この目標が掲げられた背景には、深刻な現実があります。
これらの数字は、私たちの生活基盤そのものが脅かされていることを意味しています。森林は二酸化炭素を吸収し、土壌は食料生産を支え、生物多様性は医薬品や農業の遺伝資源を提供しています。陸の豊かさを失うことは、人類の生存基盤を失うことに直結するのです。
陸の豊かさを守ろうの基本的な考え方を理解したうえで、次に具体的なターゲットを見ていきましょう。
目標15の9つの具体的ターゲット

SDGs目標15には、達成すべき9つの具体的なターゲットが設定されています。これらは大きく3つのカテゴリーに分類できます。
生態系の保全と回復に関するターゲット
最も根幹をなすのが、陸域生態系そのものの保護です。
ターゲット15.1では、2020年までに森林、湿地、山地、乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系の保全・回復・持続可能な利用を確保することが掲げられました。当初の期限は過ぎていますが、この取り組みは継続的に推進されています。
ターゲット15.2は、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林および再植林を大幅に増加させることを目指しています。
ターゲット15.4では、2030年までに山地生態系の保全を確保し、生物多様性を含む山地生態系の能力を強化することが求められています。
土地の劣化と砂漠化への対処
ターゲット15.3は、2030年までに砂漠化に対処し、砂漠化や干ばつ、洪水の影響を受けた土地を含む劣化した土地と土壌を回復するという目標です。世界で約20億ヘクタールもの土地が劣化しており、回復の余地があるとされています。
砂漠化の主な原因は以下の通りです。
- 過度な農地開拓による土壌の疲弊
- 過放牧による植生の破壊
- 土壌の栄養分・水分の枯渇
- 気候変動による降水パターンの変化
これまでの取り組みで感じているのは、砂漠化は一度進行すると回復に何十年もかかるという点です。予防的なアプローチが何より重要になります。
生物多様性の保護に関するターゲット
ターゲット15.5では、自然生息地の劣化を抑制し、生物多様性の損失を阻止し、絶滅危惧種を保護・回復することが求められています。
ターゲット15.7は、保護の対象となっている動植物種の密猟や違法取引を撲滅するための緊急対策を講じることを目指しています。
残りのターゲットは、遺伝資源の利用から生じる利益の公正な配分(15.6)、生態系と生物多様性の価値を国家・地方の計画や開発プロセスに組み込むこと(15.9)、そして実施手段としての資金動員(15.a・15.b・15.c)に関するものです。
陸の豊かさが直面している世界的な課題

目標15の取り組みを理解するには、まず何が問題なのかを正確に把握する必要があります。
森林減少と違法伐採の深刻さ
森林は地球の陸地面積の約31%を占めていますが、その面積は年々縮小しています。違法伐採は特に深刻な問題で、開発途上国を中心に大規模な森林破壊が続いています。
違法伐採が止まらない背景には、経済的な要因があります。木材の国際需要は高く、短期的な利益を求めて持続不可能な方法で伐採が行われています。さらに、森林火災も大きな脅威となっており、森林破壊の対策は世界規模で喫緊の課題です。
先進国と途上国の格差
環境保護の取り組みにおいて、先進国と途上国の間には大きな格差が存在します。
先進国の状況
- 環境保護への資金・技術が豊富
- 法整備と監視体制が整っている
- 市民の環境意識が比較的高い
途上国の課題
- 保全よりも開発が優先されがち
- 資金不足で監視体制が不十分
- 貧困が環境破壊の一因になっている
この格差を埋めることが、目標15の達成には不可欠です。貧困をなくそうという目標1との連携が重要になる理由がここにあります。貧困の解消なくして、陸の豊かさの保全は実現しないのです。
陸の豊かさを守る国際的な法的枠組み

陸の豊かさを守るための取り組みは、いくつかの重要な国際条約によって支えられています。
ワシントン条約(CITES)
正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」です。密猟や過度な商業取引から野生動植物を守るために、国際取引を規制しています。象牙やサイの角、希少な植物など、約38,000種が保護対象となっています。
ラムサール条約
1971年にイランのラムサールで採択されたこの条約は、湿地の保全と賢明な利用を目的としています。日本国内でも53か所の湿地が登録されており、釧路湿原や琵琶湖などが含まれています。
湿地は「自然のスポンジ」とも呼ばれ、洪水を緩和し、水質を浄化し、多くの生物の生息地を提供しています。
国連砂漠化対処条約
1996年に発効したこの条約は、特にアフリカの深刻な干ばつや砂漠化に対処するために策定されました。各国に対して干ばつ対策の国家政策を構築するよう求めています。
砂漠化は自然災害ではなく、人間の活動と気候変動が複合的に引き起こす現象です。だからこそ、人間の取り組みによって食い止めることができるのです。
これらの国際条約に加えて、2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」も重要です。2030年までに陸と海の少なくとも30%を保全するという「30by30」目標が設定され、各国の取り組みが加速しています。
国や自治体レベルの具体的な取り組み
日本政府の取り組み
日本は国土の約67%が森林で覆われている世界有数の森林国です。政府は「生物多様性国家戦略」を策定し、以下のような施策を推進しています。
- 国立公園や自然保護区の拡大・管理強化
- 里山・里海の保全と持続可能な利用の推進
- 絶滅危惧種の保護・回復プログラム
- 違法伐採対策としてのクリーンウッド法の施行
- 30by30目標に向けた「自然共生サイト」の認定
特に注目すべきは「自然共生サイト」の取り組みです。国立公園などの保護地域だけでなく、企業の社有林や里山など、民間が管理する自然環境も保全エリアとして認定する制度で、保全面積の拡大を目指しています。
自治体の先進的な事例
地方自治体でも独自の取り組みが進んでいます。例えば、長野県では「信州の森林づくり県民税」を導入し、荒廃した里山の整備や間伐を推進しています。また、兵庫県豊岡市では、コウノトリの野生復帰を軸とした生態系再生プロジェクトが成功を収め、国際的にも注目されています。
企業による陸の豊かさを守る取り組み
近年、企業のSDGs目標15への取り組みは急速に広がっています。ESG投資の拡大や消費者の環境意識の高まりが、その背景にあります。
サプライチェーンにおける森林保護
紙やパーム油、木材を使用する企業にとって、サプライチェーンの持続可能性は重要な経営課題です。FSC認証(森林管理協議会認証)やRSPO認証(持続可能なパーム油のための円卓会議認証)を取得する日本企業が増加しています。
具体的には、以下のような取り組みが見られます。
- 製紙メーカーによる植林事業と認証材の調達拡大
- 食品メーカーによる認証パーム油への切り替え
- 住宅メーカーによる国産材・認証材の積極活用
- 小売業によるサプライチェーンの透明性確保
企業の自然資本への投資
「自然資本」という考え方が企業経営に浸透しつつあります。これは、森林や土壌、生物多様性を経済的な資産として評価し、その保全を企業戦略に組み込むアプローチです。
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みが整備されたことで、企業は自然資本への依存度やリスクを開示することが求められるようになりました。環境を守る取り組みは、もはやCSRの一環ではなく、企業の存続に関わる経営戦略そのものとなっています。
テクノロジーを活用した保全活動
最新技術の活用も進んでいます。
衛星モニタリング
人工衛星を使って森林の減少や土地の劣化をリアルタイムで監視
AI・ドローン活用
AIによる生態系分析やドローンでの種まきによる効率的な植林
eDNA技術
環境DNA分析で水や土壌から生物の存在を効率的に調査
個人でできる「陸の豊かさを守ろう」の取り組み
「大きな問題すぎて、個人にできることなんてあるの?」と感じる方もいるかもしれません。しかし、一人ひとりの小さな行動の積み重ねが、確実に陸の豊かさの保全につながります。
日常の消費行動を見直す
私たちの買い物は、サプライチェーンを通じて世界の森林や生態系に影響を与えています。
すぐに始められる行動:
- FSC認証マークがついた紙製品・木製品を選ぶ
- RSPO認証のパーム油を使用した製品を購入する
- 地産地消を心がけ、輸送に伴う環境負荷を減らす
- 使い捨て製品を減らし、リデュースを意識する
- フードロスを減らし、食料生産のための土地開発圧力を軽減する
地域の自然保全活動に参加する
各地域では、里山の保全活動や植樹イベント、外来種の駆除活動などが行われています。自治体の広報やNPO団体のウェブサイトで情報を探してみてください。
実際に手を動かして自然と触れ合うことで、陸の豊かさの大切さを肌で感じることができます。これは特にお子さんの環境教育にも効果的です。
情報を知り、発信する
森林破壊に対して私たちにできることの第一歩は、まず「知ること」です。そして、知ったことをSNSや日常の会話で周囲に伝えることも、立派な取り組みの一つです。
他のSDGs目標との深い関わり
陸の豊かさを守る取り組みは、他のSDGs目標と密接に連動しています。この点は、既存のコンテンツではあまり深く触れられていない部分です。
気候変動対策(目標13)との関係
森林は巨大な炭素吸収源です。森林を守ることは、そのまま気候変動対策に直結します。逆に、森林破壊が進めば大量のCO2が放出され、気候変動がさらに加速するという悪循環に陥ります。
海の豊かさ(目標14)との関係
陸地から流れ出る土砂や汚染物質は、河川を通じて海に到達します。陸の生態系を保全することは、海の豊かさを守ることにもつながるのです。山から海へとつながる生態系の連続性を意識することが大切です。
貧困と教育との関係
途上国では、貧困が森林破壊の大きな原因となっています。生活のために森林を伐採せざるを得ない人々に対して、持続可能な生計手段を提供することが必要です。そのためには質の高い教育を通じた意識啓発と技術移転が欠かせません。
2030年に向けた課題と展望
SDGs目標15の達成期限である2030年まで、残された時間は限られています。
正直に言えば、現在の進捗状況は楽観できるものではありません。当初2020年までに達成すべきとされたターゲットの多くが未達成のまま残っており、新たな課題も浮上しています。
しかし、希望がないわけではありません。
「国連生態系回復の10年(2021-2030)」が宣言され、世界規模での生態系回復の取り組みが加速しています。また、企業のTNFD対応や自然資本への投資拡大、市民の環境意識の高まりなど、ポジティブな変化も確実に起きています。
大切なのは、「完璧でなくても、今できることから始める」という姿勢です。国際的な枠組み、国や自治体の政策、企業の取り組み、そして個人の行動。すべてのレベルでの取り組みが重なり合って、初めて陸の豊かさを守ることができるのです。
よくある質問(FAQ)
「陸の豊かさも守ろう」と「陸の豊かさを守ろう」はどう違うのですか?
正式な日本語訳は「陸の豊かさも守ろう」です。「も」には、目標14の「海の豊かさを守ろう」と並んで陸の生態系「も」守ろうという意味が込められています。ただし、一般的には「を」を使った表現も広く使われており、意味するところは同じです。
日本は島国なのに、なぜ陸の豊かさの取り組みが重要なのですか?
日本は国土の約67%が森林で覆われ、多様な生態系を有する自然豊かな国です。しかし、里山の荒廃、外来種の侵入、開発による生息地の減少など、日本固有の課題も多く存在します。また、日本の消費活動は海外の森林資源にも大きく依存しており、グローバルな視点での取り組みが求められます。
企業がSDGs目標15に取り組むメリットは何ですか?
ESG投資の評価向上、サプライチェーンリスクの低減、ブランドイメージの向上、将来的な規制への先行対応などが挙げられます。また、森林の働きが提供する生態系サービス(水源涵養、土砂災害防止など)は、企業活動の基盤でもあります。自然資本の毀損は、長期的には企業の存続リスクにつながります。
個人の取り組みで本当に効果があるのですか?
一人の行動だけでは限定的かもしれませんが、消費者の選択は市場を動かす力を持っています。認証製品の需要が増えれば、企業はより持続可能な調達に切り替えざるを得なくなります。また、SNSでの発信や投票行動を通じて、政策に影響を与えることも可能です。すべてのケースに当てはまるわけではありませんが、多くの場合、個人の行動の積み重ねが社会全体の変化を生み出しています。
2030年までにSDGs目標15は達成できそうですか?
現状では、多くのターゲットが達成困難な状況にあるとされています。しかし、昆明・モントリオール生物多様性枠組の採択やTNFDの普及など、新たな推進力も生まれています。完全な達成は難しいかもしれませんが、取り組みを加速させることで、少しでも目標に近づくことが重要です。「達成できるかどうか」ではなく、「どれだけ前進できるか」という視点で捉えることが大切だと考えています。
陸の豊かさを守る取り組みは、私たちの世代だけの問題ではありません。次の世代に豊かな自然環境を残せるかどうかは、今の私たちの行動にかかっています。まずは身近なところから、一つでも具体的なアクションを始めてみてはいかがでしょうか。