貧困をなくそうSDGs目標1の現状と取り組みを徹底解説

世界では今この瞬間も、6億3,040万人以上の人々が1日2.15ドル(約320円)未満で暮らしています。そのうち約半数にあたる3億3,500万人が子どもたちです。つまり、世界の子どもの6人に1人が極度の貧困状態に置かれているという現実があります。
SDGs(持続可能な開発目標)の目標1「貧困をなくそう」は、2030年までにあらゆる形態の貧困を終わらせることを掲げた、17の目標の中でも最も根本的なテーマです。個人的にSDGs関連の調査や情報整理に携わってきた中で感じるのは、この問題は「遠い国の話」ではなく、日本に暮らす私たちにとっても身近な課題だということです。実際に、日本の相対的貧困率はOECD加盟38カ国中7番目に高い15.7%という数字が出ています。
この記事では、SDGs目標1の具体的なターゲットから世界と日本の現状、そして個人や組織ができる取り組みまでを包括的にまとめました。
この記事で学べること
- 世界の極度の貧困者数は25年間で約64%減少したが、2030年目標の達成は困難な状況にある
- 国際貧困ラインは2022年に1日2.15ドルへ引き上げられ、基準自体が進化している
- 日本の相対的貧困率15.7%はOECD加盟国中ワースト7位という深刻さ
- サハラ以南アフリカに世界の極度の貧困の60%以上が集中している構造的問題
- 貧困削減に効果が実証されている具体的な介入方法と私たちにできるアクション
SDGs目標1「貧困をなくそう」とは何か
SDGs目標1は、正式には「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」という目標です。2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に含まれる17の目標の最初に位置づけられています。
この「最初」という順番には意味があります。
貧困は単にお金がないという問題にとどまりません。教育を受けられない、医療にアクセスできない、安全な水が手に入らないなど、人間の基本的な権利が奪われる根本的な問題です。他のSDGs目標の多く——健康、教育、ジェンダー平等——は、貧困の解消なくして達成が難しいと考えられています。
目標1の4つのターゲット
SDGs目標1には、達成すべき具体的なターゲットが設定されています。それぞれの内容を見ていきましょう。
極度の貧困の撲滅
2030年までに、1日2.15ドル未満で生活する「極度の貧困」をすべての人々について終わらせる
あらゆる貧困の半減
各国の定義に基づくあらゆる次元の貧困状態にある人の割合を、2030年までに少なくとも半減させる
社会保障制度の整備
各国において適切な社会保障制度や対策を実施し、2030年までに貧困層・脆弱層に十分な保護を達成する
資源の動員
開発途上国の貧困撲滅を支援するため、さまざまな資源を動員し、政策枠組みを構築する
国際貧困ラインの変遷
「貧困」を測る基準自体も、時代とともに見直されてきました。世界銀行が定める国際貧困ラインは以下のように推移しています。
- 以前の基準:1日1.25ドル
- 2021年基準:1日1.90ドル
- 2022年9月改定(現行基準):1日2.15ドル
この基準の引き上げは、物価上昇や生活コストの変化を反映したものです。ただし、1日2.15ドルという金額は、日本円に換算すると約320円程度。これで食事、住居、衣服、医療など生活のすべてをまかなわなければならないという現実は、数字以上に厳しいものがあります。
世界の貧困の現状を数字で把握する
貧困問題の全体像をつかむには、具体的な数字を見ることが欠かせません。UNICEFと世界銀行の共同調査をはじめとする国際機関のデータから、現在の状況を整理します。
極度の貧困に暮らす人々の推移
まず、過去30年間の変化を見てみましょう。
極度の貧困者数の推移
出典:世界銀行・UNICEF共同調査データ
1990年から2015年までの25年間で、極度の貧困者数は約18.95億人から7.34億人へと約64%も減少しました。これは人類史上、類を見ない成果です。
しかし、この数字だけを見て楽観はできません。
減少のペースは近年明らかに鈍化しています。2017年時点で世界人口の約9.2%にあたる6.89億人が依然として極度の貧困にあり、最新のデータでも6億3,040万人、世界人口の約10%が貧困ラインを下回る生活を送っています。
地域別に見る貧困の偏り
世界の貧困は均一に分布しているわけではありません。地域によって状況は大きく異なります。
南アジアは、1990年に45%だった貧困率が2013年には15%まで低下し、大幅な改善を見せた成功例といえます。中国やインドの経済成長が大きく寄与しました。
一方で、サハラ以南アフリカの状況は深刻です。貧困率は1990年の54%から2013年に41%へと割合としては下がったものの、人口増加の影響で貧困状態にある人の実数はむしろ1億1,300万人増加しています。現在、世界の極度の貧困の60%以上がサハラ以南アフリカに集中しているという構造的な偏りが生じています。
この地域格差の背景には、紛争や政情不安、インフラの未整備、気候変動による干ばつや洪水の頻発など、複合的な要因が絡み合っています。
子どもの貧困という深刻な課題
貧困問題の中でも特に注目すべきは、子どもへの影響です。
UNICEFと世界銀行の共同調査によれば、極度の貧困に暮らす6億3,040万人のうち、約半数にあたる3億3,500万人が子どもです。世界の子どもの6人に1人が極度の貧困状態にあるという計算になります。
2013年から2017年の間に、子どもの貧困者数は2,900万人減少しました。しかし、この減少ペースは大人の貧困減少率と比べて遅いという問題があります。
子どもが貧困の影響を受けやすい理由はいくつかあります。
- 栄養不足が身体的・知的発達に不可逆的な影響を与える
- 教育機会の喪失が将来の所得に直結する
- 経済的ショックに対する自力での対応手段を持たない
- 社会保障制度の恩恵を直接受けにくい立場にある
子どもの時期の貧困は、成人後の貧困につながりやすく、いわゆる「貧困の連鎖」を生み出す要因になります。この連鎖を断ち切ることが、SDGs目標1の達成において特に重要な課題です。
日本における貧困の実態
「貧困」と聞くと、発展途上国の問題というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、日本にも深刻な貧困問題が存在します。
ここで理解しておきたいのが、「絶対的貧困」と「相対的貧困」の違いです。
絶対的貧困とは、生存に必要な最低限の生活水準を満たせない状態を指します。国際貧困ライン(1日2.15ドル)がこの基準に当たります。
相対的貧困とは、その国の所得中央値の半分を下回る所得で暮らしている状態を指します。日本の場合、2018年時点の貧困ラインは年間約127万円とされています。
日本の相対的貧困率の深刻さ
2021年のOECDデータによると、日本の相対的貧困率は15.7%で、OECD加盟38カ国中7番目に高い水準です。これは約6〜7人に1人が相対的貧困にあることを意味します。
先進国の中でこの数字は決して低くありません。日本国内の相対的貧困率は15.4%前後で推移しており、大きな改善が見られていないのが現状です。
日本の子どもの貧困と政府の対策
日本政府は2018年に子どもの貧困対策に関する行動計画を策定し、以下のような施策を進めています。
- 子ども食堂の支援拡充
- ひとり親家庭への経済的支援の強化
- 教育費の負担軽減(就学援助、高等教育の無償化拡大)
- 生活困窮者自立支援制度の充実
これらの取り組みは一定の成果を上げていますが、相対的貧困率の大幅な改善にはまだ至っていません。特にひとり親世帯の貧困率が高い状態が続いており、構造的な対策の必要性が指摘されています。
2030年目標の達成は可能なのか
率直に言えば、現在の状況は楽観できるものではありません。
2017年時点の貧困削減ペースが継続した場合、ターゲット1.1(極度の貧困の撲滅)は2024年に達成可能という試算もありました。しかし、実際にはそのペースを維持できていません。
目標達成を阻む3つの壁
第一の壁:新型コロナウイルスの影響
COVID-19パンデミックは、世界の貧困削減の進捗を大きく後退させました。経済活動の停滞、失業の増加、サプライチェーンの混乱により、多くの人々が新たに貧困に陥りました。特に制度的な保護が弱い地域では、その影響が長期化しています。
第二の壁:気候変動と環境問題
気候変動による自然災害の激甚化は、農業に依存する貧困層に直接的な打撃を与えています。干ばつ、洪水、異常気象は食料生産を脅かし、すでに脆弱な状態にある人々をさらに追い詰めています。
第三の壁:紛争と政情不安
世界各地で続く紛争は、インフラの破壊、避難民の増加、経済活動の停止を引き起こし、貧困削減の取り組みを根本から覆してしまいます。
貧困削減に効果のある取り組みとアプローチ
では、具体的にどのような取り組みが貧困削減に効果を上げているのでしょうか。これまでの実践から見えてきた主要なアプローチを整理します。
社会保障制度の構築と拡充
SDGsターゲット1.3が掲げる社会保障制度の整備は、貧困対策の基盤です。
具体的には、以下のような仕組みが各国で導入・拡充されています。
- 現金給付プログラム(Cash Transfer):条件付き・無条件の現金給付は、即効性のある貧困対策として多くの国で効果が実証されています。ブラジルの「ボルサ・ファミリア」やメキシコの「プロスペラ」が代表例です
- 社会保険制度:医療保険、年金、失業保険など、リスクに備える仕組みの整備
- 公共サービスの無償化・低価格化:教育、医療、水道などの基本サービスへのアクセス保障
教育への投資
教育は貧困の連鎖を断ち切る最も効果的な手段の一つとされています。特に女子教育への投資は、出生率の低下、健康改善、経済参加の促進など、多面的な効果をもたらすことが分かっています。
マイクロファイナンスと金融包摂
銀行口座を持てない貧困層に対して、少額融資や貯蓄サービスを提供するマイクロファイナンスは、自立的な経済活動を支援する手段として広がっています。近年ではモバイルバンキングの普及により、アフリカを中心にデジタル金融サービスへのアクセスが急速に拡大しています。
民間セクターの参画
企業のCSR活動やESG投資を通じた貧困削減への貢献も重要性を増しています。サプライチェーンにおける公正な賃金の確保、現地雇用の創出、BOP(Base of the Pyramid)ビジネスなど、ビジネスと社会課題解決を両立するアプローチが注目されています。
私たちにできる具体的なアクション
「世界の貧困」という大きなテーマに対して、個人として何ができるのかと感じる方も多いのではないでしょうか。実は、日常の中でできることは少なくありません。
知ること・伝えること
まず最も基本的で、かつ重要なアクションは「知ること」そのものです。この記事を読んでいるということ自体が、すでに第一歩を踏み出していると言えます。
得た知識をSNSで共有したり、家族や友人と話題にしたりすることで、問題への認知が広がります。認知の広がりは、やがて政策や企業行動の変化につながっていきます。
消費行動を通じた貢献
- フェアトレード商品の購入:生産者に適正な対価が支払われる商品を選ぶことで、途上国の貧困削減に直接貢献できます
- エシカル消費の実践:リデュース(ごみの削減)を含む持続可能な消費行動は、環境負荷を減らしながら社会的公正にも寄与します
- 社会的企業の商品・サービスの利用:貧困問題の解決をミッションとする企業を支援する消費選択
寄付・ボランティア活動
国際NGOや国内の子ども支援団体への寄付は、直接的な支援手段です。金額の大小ではなく、継続的な関わりが重要です。また、子ども食堂でのボランティアや学習支援など、地域での活動に参加することも有効な選択肢です。
組織・企業としての取り組み
企業・組織が検討できるアクション
貧困と他のSDGs目標との深いつながり
貧困問題は、SDGsの他の目標と密接に関連しています。この相互関連性を理解することが、効果的な取り組みにつながります。
貧困は単独で存在する問題ではなく、他の社会課題と複雑に絡み合っています。
気候変動(目標13)との関連:気候変動の影響を最も強く受けるのは、適応能力の低い貧困層です。自然災害による農作物の被害、水資源の枯渇、居住環境の悪化は、貧困をさらに深刻化させます。
平和と公正(目標16)との関連:紛争や暴力は貧困の主要な原因であり結果でもあります。法の支配が機能しない環境では、経済活動が制限され、社会保障制度も機能しません。
ジェンダー平等(目標5)との関連:世界的に見て、女性は男性よりも貧困に陥りやすい傾向があります。教育機会の格差、賃金格差、家事・育児の負担の偏りなどが複合的に作用しています。
健康と福祉(目標3)との関連:貧困は医療へのアクセスを制限し、栄養不良や感染症のリスクを高めます。逆に、病気や障害は労働能力を低下させ、貧困を悪化させるという悪循環が存在します。
これらのつながりを踏まえると、貧困問題への取り組みは、SDGs全体の達成に向けた「てこ」の役割を果たすことが分かります。
よくある質問(FAQ)
SDGs目標1の「極度の貧困」と日本の「相対的貧困」は何が違うのですか
極度の貧困は、1日2.15ドル(約320円)未満で生活する状態を指す国際的な絶対基準です。一方、相対的貧困は、その国の所得中央値の半分を下回る状態を指します。日本では年間約127万円が貧困ラインとされています。日本には国際基準での「極度の貧困」はほぼ存在しませんが、相対的貧困は約6〜7人に1人という高い水準にあり、生活の質や社会参加の面で深刻な問題となっています。
なぜ貧困削減のペースが近年鈍化しているのですか
主な要因は3つあります。第一に、COVID-19パンデミックによる世界的な経済停滞です。第二に、気候変動による自然災害の増加が農業依存の貧困層を直撃しています。第三に、サハラ以南アフリカなど貧困が集中する地域での人口増加が、割合としての改善を相殺しています。加えて、残された貧困層は紛争地域や制度的に脆弱な地域に集中しており、支援が届きにくいという構造的な課題もあります。
個人の寄付やボランティアは本当に貧困削減に効果があるのですか
効果はあります。ただし、重要なのは「どこに」「どのように」支援するかです。実績のある国際NGOや認定NPOへの継続的な寄付は、現地での教育支援、医療提供、生活基盤の整備に直接活用されます。また、日本国内でも子ども食堂や学習支援ボランティアは、子どもの貧困対策として実際に機能しています。一回きりの大きな支援よりも、少額でも継続的な関わりの方が長期的な効果を生みやすいと言われています。
企業がSDGs目標1に取り組むメリットは何ですか
ESG投資の拡大に伴い、貧困削減を含む社会課題への取り組みは企業価値の向上に直結するようになっています。具体的には、ブランドイメージの向上、投資家からの評価向上、新興国市場でのビジネス機会の創出、優秀な人材の確保などが挙げられます。また、サプライチェーンにおける公正な取引は、長期的な調達の安定性にもつながります。社会課題の解決と事業成長を両立する「CSV(共通価値の創造)」の考え方が広がっています。
2030年までにSDGs目標1は達成できる見込みはありますか
現時点での国連の評価では、現在のペースが続く限り2030年までの達成は極めて困難とされています。しかし、これは「不可能」を意味するわけではありません。社会保障制度の拡充、デジタル技術を活用した金融包摂の推進、気候変動対策との連携強化など、加速要因となり得る取り組みは存在します。重要なのは、各国政府、国際機関、民間セクター、そして市民社会が連携して取り組みのスピードを上げることです。
まとめ
SDGs目標1「貧困をなくそう」は、人類が直面する最も根本的な課題の一つです。
過去25年間で極度の貧困者数を約64%削減できたという事実は、人間の努力が確実に成果を生むことを証明しています。一方で、依然として6億3,040万人が極度の貧困にあり、その半数が子どもであるという現実、そして日本でも約6〜7人に1人が相対的貧困にあるという事実は、この問題がまだ解決には程遠いことを示しています。
2030年の目標達成は確かに厳しい状況にあります。しかし、社会保障制度の整備、教育への投資、テクノロジーの活用、そして一人ひとりの意識と行動の変化が組み合わさることで、状況を変えていくことは可能です。
まずは「知ること」から始めてみてください。そして、フェアトレード商品を一つ手に取ること、地域のボランティアに参加すること、SNSで情報を共有すること——小さな一歩が、大きな変化の起点になり得ます。team-6では、SDGsに関する情報を引き続き発信していきます。共に学び、共に行動していきましょう。