越谷レイクタウンの試み
真の“エコストア”を目指す、イオンの挑戦
越谷レイクタウンの試み①
1.低炭素をキーワードにした街づくり
都心から北におよそ25km。ベッドタウンとして開発が進む埼玉県越谷市で、いま「低炭素」をキーワードにした街づくりが進んでいます。
JR武蔵野線に今年3月開業した新駅を中心に開発が進む、「越谷レイクタウン」の総面積は225.6ヘクタール(東京ドーム50個分)。将来的にはここに2万2400人が暮らす街が生まれる予定ですが、その最大の特徴は、計画段階からCO2排出量20%削減を目指す取り組みが行われた点にあります。
これは、環境省が行う「街区まるごとCO2 20%削減事業」*にも選ばれ、国内最大規模の太陽熱供給システムを導入した集合住宅や、地域の風の流れを考えることで冷暖房負荷軽減を目指した戸建住宅など、多様な技術を取り入れた建物の建設が現在進行中です。
今回から3回シリーズで、越谷レイクタウンにおける低炭素化への取り組みをレポートします。
*「街区まるごとCO2 20%削減事業」 面的な広がりを持つエリア全体でCO2削減に取り組むことで、個別の対策では得られない効果をあげることを目的に生まれた制度。公募を通し、より優れた提案をモデル事業として選定し、その費用の一部を補助する。越谷レイクタウンの取り組みは、2006年にスタートした同制度が最初に選定したモデル事業のひとつ。
2.CO220%削減を目指したショッピングセンター
今年10月、この街にオープンしたのが、国内最大規模のショッピングセンター「イオンレイクタウン」。「KAZE(風)」「MORI(森)」と名づけられた2つのショッピングモールの売り場面積の合計は約22万㎡。565の店舗が出店する施設内はまさにひとつの街です。実はここでも、CO2排出量20%削減に向けた取り組みは行われています。
「私たちはこのような店舗を、“エコストア”と名づけています」というのは、イオン株式会社グループ環境・社会貢献部の木下順次さん。2004年に「地球温暖化防止に関する基本方針」を立案して以来、イオングループでは、CO2削減に向けた独自の取り組みを進めてきました。
「イオンレイクタウンは、現時点におけるその集大成でもあるのです」。
ソーラーパネルが目印
イオンレイクタウン内観
3.エコストアをめぐる3つのキーワード
“エコストア”というと、どうしても店舗=ハード面を連想しがちです。だが、小売業という観点から見れば、取り組みには大きく3つの方向性が成り立つと木下さんはいいます。
まずは、事業の器としての店舗をいかに低炭素化していくか。次に、そこで提供する商品やサービスの環境負荷をどう低減化していくか。たとえば、モーダルシフトにより輸送時の排出量を低減する試みがその一例です。最後が、それをいかに消費者一人ひとりに理解してもらうか、という方向性です。
「2007年から始めた『レジ袋無料配布中止活動』は、その象徴的なケースといえるでしょう。その際、私たちは行政や地域の消費者団体・環境団体との対話を重ね、最終的に無料配布中止に踏み切りました。その結果、『レジ袋無料配布中止活動』が私たちの考えた以上にお客さまに受け入れられたばかりか、イオンに対しロイヤリティやシンパシーを感じる方が増えることにもつながったのです」。
小売業という形態を考えると、環境への取り組みは消費者の理解が不可欠。そのために積極的に情報を提供していくことが、結果として事業にとってもプラスに働いたという構図がここにはあります。
「私たち一人ひとりの意識が変わらないことには、地球温暖化は止まりません。生意気な言い方かもしれませんが、私たちは、お客さま一人ひとりのライフスタイルを変えるお手伝いをしたいと思っているのです」。
たしかにそれこそが小売業だからこそできる、地球温暖化に向けた大きな取り組みといえるのかもしれません。
イオン株式会社 グループ環境・社会貢献部 木下順次さん
施設内ではパネル展示等を通し、気づきに向けた取り組みが随所で行われている
4.新技術の導入は、コストとのせめぎあいだった
従来型店舗に比べ、CO2を20%減らすために求められる削減量は、年間9,000トン。イオンレイクタウンでは、その72%を熱源システムの効率化によりまかなう予定です。
熱源システムとは、商業施設における環境負荷中、大きな比重を占める冷暖房のもととなる熱源をつくるシステム。同施設では、国内初となる「ハイブリッドガスエコシステム」や、「地中熱利用システム」「気化熱利用システム」「太陽熱利用システム」などの導入により、その達成を目指します。ハイブリッドガスエコシステムとは、ガスにより発電し、その廃熱を熱源として利用するコージェネレーションシステムに加え、ガスによる発電の一部を、高効率ターボ冷凍機に利用するシステムです。
「技術は日進月歩で進歩しています。しかし、われわれにとってその導入は常にコストとのせめぎあいです。その課題をクリアする方法を考えることも重要な仕事です」というのは、イオンリテール株式会社ディベロッパー企画本部の北瀬忠さん。
たとえば、ハイブリッドガスエコシステムは、株式会社日立製作所の「エネルギーサービス」を活用しています。これは設備導入費用やメンテナンス費用をメーカーやエネルギー供給業者が担い、そこで生まれるエネルギーをリーズナブルな価格で購入するというもの。それにより初期投資費用が不要になるわけです。同様のサービスは、夜間電力で氷をつくり、それを冷房に利用する「氷蓄熱槽」でも採用されています。
「また、行政による支援も大きな追い風です。イオンレイクタウンは、環境省、NEDO、埼玉県からの補助を受けていますが、それはコスト面に限らず、お客さまへのメッセージという点でも大きな意味を持つと思うのです」。
イオンリテール株式会社ディベロッパー企画本部建設部設備担当部長 北瀬忠さん
ハイブリッドガスエコシステム
5.“気づき”のあるショッピングセンターを目指して
インターネット上の仮想店舗に比べ、実店舗の維持には、より大きな環境負荷が必要になります。しかし実店舗には、仮想店舗が真似できない特徴がひとつあります。それは、人と人とが現実に出会う場であるという点です。
「それを最大限に生かし、イオンの考えをお客さまに積極的に伝えていきたいと考えています。私たちは、実店舗という場を通し、21世紀型の新しいコミュニティを創造していきたいのです」(木下さん)。
その試みの象徴といえるのが、MORI 3階のアクトグリーンルーム。ここは、地球環境問題やそれに対するイオングループの取り組みを、来館者に極力わかりやすく伝えていくことを目的としたスペースといえます。
「展示は、お子さんにも理解しやすいことを心がけています。たとえばこれですね」と指さした先にあったのは、巨大な地球儀。「『触れる地球』と名づけられたこの装置を通し、いまのペースで温暖化が進むと地球がどう変わるかなどを感覚的に理解することも可能です」。
施設内随所で見られる環境への取り組みを表示したパネルや、“エコ”をテーマにした美術作品の展示も、その取り組みの一環です。「最初はなんだか分からない。でも目を凝らすと、何かを感じる。私たちは店舗をそのような気づきのある場にしたいと考えています」
ボトルキャップを使った手作りアートのワークショップなど、人と人が触れ合うさまざまな機会を提供するイオンレイクタウンでは、今後、普段は見ることができないバックヤードの設備見学も含めた「エコツアー」も検討中といいます。
アクトグリーンルーム
施設内では、エコをテーマにした美術作品が展示されている
6.求められるのは、多様な関係性の構築
イオングループは2008年3月、2012年までに各店舗のCO2排出量を2006年比で30%削減することを含む、「イオン温暖化防止宣言」を発表しています。
「エコストアは、その実現のためのパイロットプラントとしての意味合いも持っています」というのは北瀬さん。他社にさきがけて導入した地下熱や気化熱を利用する熱源システムやLEDライトの採用などは、将来に向けた検証テストという意味合いもあるといいます。
「同業他社の皆さんにも、われわれが効果を実証した技術については、どんどん真似てほしいと思うんです。技術の汎用化が進めば、それだけ導入コストも抑えられるわけですから」。
一方、「技術面だけの対応では、30%という目標の達成は難しいのでは」と木下さんは指摘します。
現在、イオングループが出店するショッピングセンターのCO2総排出量中、出店テナントによるものは30~35%を占めています。それをどう改善していくか。それは今後の大きな課題です。「出店される各社も、それぞれ独自の取り組みは進めているはずです。今後は、われわれのノウハウも含め、それらを体系化していく取り組みが必要になると考えています。現在も出店テナントに対して照明機器の提案などは行っていますが、これからは、その関係をさらに深めていきたいと考えています」。
消費者と企業、行政と企業、そして企業と企業――。低炭素社会の実現には、さまざまな関係のなかで、取り組みへの意識やノウハウを共有化していくことが強く求められているといえそうです。
地中熱を利用した空調システム
駐車場の照明装置には低電力のLEDライトも採用

